『シンゴの旅ゆけば〜!(4)ヒルストリートのヤバさ』

整体していて、右手の中指が一番敏感なことに気づいたんですけどね。次が右手の親指だと思うんですけど、そう考えたら、左手の方は少し鈍いかもしれない。

目で見たものを記憶するように、指先で感じる記憶ってのがあって、何度か整体に来てくれたお客さんに触れると、ああ、そうそう、肋骨の位置が面白い人だとか、指先から思い出すことがあるんです。

職業柄なんでしょうけど、そう考えると、変なところは敏感かもしれない。

ユナイテッド航空が日本に就航して何周年かの記念チケットってのが発売されて、運良く買えたんです。成田発でヨーロッパ2都市、アメリカ4都市を巡って、なんと12万円。確かその時は、うちの弟と一緒に旅してました。

サンフランシスコから、アメリカ2都市目のロスに着いて、ウォーク・オブ・フェイムっていう、ハリウッドのスターが手形、足形を残してる歩道のすぐそばにホテルを見つけました。1泊1800円。6人大部屋だけど、朝食付きなんです。オーナーが、なぜかいつも上半身裸でドラムのスティックを持ってるとか、夜の町に立っているお姉さんが、朝食を作ってくれるから(ホテルを手伝う代わりに、彼女たちはただで泊まらせてもらっていたみたいです。)化粧がはげちゃって、ものすげぇ顔になったお姉さんに、さっさと早く食べろと言われるとか、まぁ、おいおいってことはありましたけど、いいホテルでした。

日本から古着の買い付けに来ていたお兄ちゃんと仲良くなって、仕事を手伝って、ホテルに戻ってビールってのが毎日のスケジュールで、スリフト・ショップをめぐって、ビンテージのナイキのスウェットを探すとか、そんなことばかりしていた時の話です。

リトル・トーキョーのあたりをうろついていて、標識を見つけたんですね。

「Hill Street」と書いてある。

あ、もしかしてここがあのヒルストリートって、兄弟で興奮したんです。

うちら兄弟って、アメリカのテレビドラマをよく見ていたんです。『特攻野郎Aチーム』とか『白バイ野郎ジョン&パンチ』とか『特捜刑事マイアミ・バイス』とかね。(タイトルは野郎ばっかりだな、しかし。)

その中に『ヒルストリート・ブルース』っていうのがあって、ヒルストリートっていうところにある警察署の話なんですけど、もしかして、ヒルストリートってここなのって興奮しちゃったわけです。まぁ、後から聞いた話だと、シカゴで撮影してたそうですから、ロスじゃなかったんですけどね。

そのヒルストリートに一歩踏み出した瞬間、2人とも足が止まったんです。

あ、こりゃヤバいって感じました。『スターウォーズ』の名物になっているセリフにI have a bad feeling about this(悪い予感がするぜ)ってのがありますけど、まさにそんな感じ。頭の中に危険信号がピーカピーカと点滅した感じです。

あんた、やばいでっせ、死にまっせって警告が聞こえてくる感じ。

兄貴もわかるかって弟が言いました。なんか、ここヤバいよなってね。

それはまぁ、治安が悪いってことなんですけど、10年くらい旅ばっかりしていて、1回もひどい目にあってないってのは、このヤバさを感知する変な敏感さがあったからでしょうね。

それで、後ずさりするように、俺と弟はヒルストリートから戻ってきました。なんていうか、空気感というか、場の雰囲気がすごく暴力的な感じだったんですよね。

じゃあ、その敏感さが、整体する時の指の敏感さと同じものかと言われたら、それは違うような気がするんですけど、生きていくのに最終的に大事なのは、こういう動物的な直感のような気がするんですよね。

自律神経に問題があるお客さまとか、整体で調整したりするんですけど、ちょっと本能が鈍っているんじゃないかなぁって感じることが多いですから。

悪い予感を感じたら、信じた方がいいでっせ!