つくづく運がいいと思っているのだけど(そうじゃなきゃ、どっかでおっ死んでいたはずだから…。)旅をしていて運がいいというのは、勘がいいこととイコールだったりするのよね。
ロサンジェルスに弟と来ていて、とりたててしたいこともなかったからリトル・トーキョーあたりをふらふら歩いていた。大通りに出ようとしたら、道路標識に「Hill Street」と書いてある。ガキの頃に『ヒルストリート・ブルース』っていうアメリカの刑事ドラマをよく見ていて、もしかしてこれがあのヒルストリートなのかもしれないって弟と盛り上がった。まぁだからといって何かがある訳ではないのだけど。ただの道だから。長崎のオランダ坂みたいなもんだね。
ところが、一歩踏み出してヒルストリートに入った途端、これはヤバいと感じたのよね。
タイのパタヤ・ビーチに行った時のことだ。ホテルのエレベーターで、きっとロシア人だろうなって男と一緒になって、その時もヤバいと感じた。奴が身体を動かした時に脇の下に拳銃を吊っているのが見えたから、俺の勘は当たっていたのだと思う。後から聞いた話だと、パタヤ・ビーチはロシアンマフィアが仕切っているそうだしね。そういう種類のヤバさをヒルストリートでも感じたわけだ。
ヒルストリートから引き返しながら、弟と何がヤバいと感じたのかねと話をしたのだけど、兄弟そろって同じ危うさを感じたのだから…あのままふらふらしていたら、きっと酷い目にあったのだと思う。だからまぁ、運がいいってのは、勘がいいってことなのよね。
それでまぁ、ロサンジェルスといったら、映画スターの手形とか足形が道にスタンプされた通りが有名でしょ。あそこでも行くかってことになって…バスを乗り継いで「Walk of fame」の通りに行ったのだけど、そんなものは5分で飽きる。そろそろ暗くなってきたし、ホテル探さなきゃいけないなとか話しながら、サンセット大通りを歩いていたのだけど、俺たちが泊まれるような安ホテルはなかなかないのよ。
さすがにロサンジェルスの路上で寝ていたら危ないよなと思っていたところに、ドラムのスティックでガードレールをカンカン叩きながら、上半身裸の男が近寄ってきた。異様にテンションが高いから、ドラッグか何かやっているのかもしれない。
兄ちゃんたち、ホテルを探してるんじゃないのか?
チョビ髭の男はそう言った。だったら、俺のホテルに泊まりなよ。
面白そうだからついていくことにしたのだけど、例の危険信号を知らせる勘が、こいつは大丈夫と言っているような気がしたのよね。