『シンゴの旅ゆけば~!(127)フランス・1998年夏⑥』

それでまぁ、人に揉みくちゃにされながら、ようやく凱旋門のそばまで来たのだけど(普通の状態であれば、1時間少しあれば歩ける距離なんだけどね)凱旋門にはフランス・チームの面々の巨大な映像が揺れていた。たぶんドライビング・シアターみたいなスクリーンだと思う。

みんなが凱旋門に来るってのは、分かっていたと言うことだから、なんかあったら凱旋門ってのが決まっているのだと思う。

さて、どうやって帰るかってのをそろそろ考えなきゃいけなくなっていて…もういい加減疲れたし、眠い。その上飲み物もない。

下手に引き返すよりも、セーヌ川の方に出た方がいいと思うと言うと、弟もカメラマン志望の女の子も任せると言ってくれた。問題は、今は行列の中央あたりにいて、ほとんど動くことができないことだったのだけど、いい具合に解決策がやってきた。

たぶん誰かが倒れるか何かしたのだろうけど、救急車がパリの中心に向かって走り始めた。凱旋門あたりに待機していたのだと思う。それで、その後ろを走ってついていくことにした。もう本当にゾンビ映画みたいな対処法だけど、これでChamps-Élysées通りを逆走して、人が減ってきたら歩くことにする。とにかくメトロは動いていないし、タクシーに乗るお金はないのだから、歩くしかないのよね。

通り沿いの公園で水を飲んで、真夜中のパリを歩いてホステルまで戻った。

相変わらず女の子は写真を撮っていて、もっとフィルムを持ってきたら良かったと言う。そうだよな、この時はまだ35ミリフィルムだったのだ。

ポン・ヌフあたりで休憩して、パリを真横に横切るようにして、バスティーユまで戻った。

あの女の子はカメラマンになれたかなと、これを書いていて思ったのだけど、そもそも旅で出会ったほとんど全ての人たちが、今どこでどうしているのか俺は知らない。

みんな、それなりに幸福でいてくれたらいいなと思うけれどね。