何しろシャンパーニュ地方なのだから、地元のスーパーマーケットに行くと、きっとB級品とか、そういう扱いだと思うのだけど、シャンパンが異様なくらい安く買えるのよね。
だいたいフランス語は全く読めないから、書いてあることが理解できないのよ。
それでまぁ、山のようにシャンパンを買い込んできて、同じ部屋のタケシくんと一緒に飲みまくっていた。
タケシくんは、このイベントに俺を誘ってくれたキモリさん(日本代表はこの人なのよね)の弟子のような気のいい兄さんで、いい人だったのよ。
日本じゃ美容師さんをやっている。
朝起きると、タケシくんと一緒にシャトーまで歩いていって、彼は彼で忙しそうにしているから、俺は朝食が終わると、またその辺をふらふらしていた。
その時に知り合った青年がいて、名前も忘れてしまったけど、このイベントの期間中に会ったシャーマン的な人たちの中で、この人が一番スゲェと思ったのよ。
まぁ、ちょっと日本だったら間違いなくオタクと呼ばれるような雰囲気の痩せたメガネの兄ちゃんで、人の目を見ないで話すあたりが、自閉傾向があると思うのだけど、彼の早口の英語を一生懸命聴いていると、そんなことがあるのかって、ちょっと常識がひっくり返るような気持ちになった。
生き物には意識がありますよね。
でも機械にも意識があるんです。
個性があると言ったらいいのかな。
意地悪なトースターもいるし、やけにフレンドリーな掃除機もいる。
ほら、おいおい、ちょっと待てよと思うでしょ?
俺も最初はそう思ったから。
でも、彼はもう修理ができないとか、そもそも修理をすることを前提で作られていないような機械を、その機械本人(というと変だけど)と話をして、こう直して欲しいという機械の願い通りに直すことを仕事にしている。
ヨーロッパ中に顧客がいて、かなり忙しいそうだった。
でもね、死んだ機械は直せないんです。
だって話してくれないから。
ああ、残念だけど直せません。
もう亡くなっていますと伝える時がこの仕事で一番辛いです。
まぁ、それはそうだろうなと思うけど、どうもピンとこない。
大量生産されたような機械にも個性があるし、寿命もみんな違うんです。
長生きの冷蔵庫もいるし、短命な電子レンジもいる。運命ですね。