『シンゴの旅ゆけば~!(114)ニューヨーク~アムステルダム⑥』

今夜はビッグマンのコンサートがあったから、どこのホテルも満室だよ。俺に着いてきたら、
ちゃんと泊まるところを見つけてやる。40代半ばくらいの男はそう言った。

それでまぁ、疲れていたし、いざとなったら逃げようと思って男についていったのだけど、
道中いろいろと話をしたんだよね。

なぁ、ビッグマンってのは誰だよ?

ボブ・ディランだよ。成功して金を持っている奴はビッグマンだ。英語でそう言うんだろ?

そんな言葉は知らなかったけど、もしかしたらビッグネームと間違えているのかもしれない。

俺はスモールマン、スモール、スモール、スモールマンだ。金も家もない。男はそう言った。
昔はそうじゃなかったんだぜ。

レッドラインを突っ切って歩いて、町のはずれにあるキリスト教の教会が運営しているホステルに
着いた。教会の隣が売春宿という素晴らしい立地だったけどね。客を待っている黒人女性が白い
下着姿で俺たちを見ている。

ホステルに入ると、ベッドはあるそうだった。

だけど、あの男はダメだ。そう言われた。

いや、彼は案内してくれただけなんですよ。そう答えた。

チップをくれよ。男はそう言ってきた。まぁ当然だから金を渡すと、全然足りないと言う。

よくある話だ。相手にせずにホテルに入ろうとすると、襟首を掴まれた。やれやれ。

俺はおまえを殴りたい。男はそう言って凄んだ。だけどな。今のアムステルダムじゃそれもできない。俺がおまえを殴ったら、5分で警察が来る。放り込まれるのはごめんだ。

男はそう言って去っていった。

レッドラインのあちこちに監視カメラがある。麻薬の取引も、暴力も、ものの数分で警察が
駆けつける。そういうシステムが出来上がっているのを、俺は隣の売春宿の姉さんから
聞くことになる。