『シンゴの旅ゆけば~!(110)ニューヨーク~アムステルダム②』

閉所恐怖症の奴は無理だろうなと思うような、現実から忘れられたような空間で
毎日ビールを飲んだり、ホットドッグを食べたりしていたのだけど、ビルの壁を目で
追っていくと、ぽっかりと空が見えた。

確か晩秋あたりの季節だったから、昼間でも薄暗いテラスにいると寒いのだけど…
太陽が真上に来た時だけ、じんわりと身体が温まっていくのを感じるのよ。
ああ、太陽って偉いなぁってつくづく感じたのだけど、そもそもビールなんて飲んでいるから寒いのだけどね。

ホテルには野茂英雄の応援に来ている日本人も数人泊まっていて、久しぶりに日本語で話ができたのも楽しかった。

そこで仲良くなったのが、イルゼっていうドイツ人の女性で、筋金入りの旅人だったのよ。おい、日本人って声をかけられたのだけど、どうも日本にしばらく住んでいたこともあるらしい。

ほとんど俺と同じくらい身長があって、ボロボロになったジーンズがよく似合っていたのだけど、それ以上にボロボロな車でアメリカ中を旅して回っていたそうだ。
彼女の車は、こんなに汚い車は『マッド・マックス』でしか見たことがないってくらい泥と埃にまみれていたのだけど、ロスからニューヨークまで縦断してきたそうで、それくらい運転するとこうなるわよと笑っていたのよね。

どこかに観光に行くこともなく、近所のダイナーに行くとか、セントラルパークを歩き回るくらいしかニューヨークでした覚えがないのだけど、時々つまらなさそうに彼女がついてきた。それ以外は、例の刑務所テラスでビールばかり飲んでいたのよね。

シンゴはアムステルダムに行くんでしょ。もうチケットはあるの?
ああ、3日後のフライトだよ。これは変更できないチケットだからね。

じゃあ、私もアムステルダムに行くよ。この車を売りたいんだけど、なかなか買い手が見つからなくてさ(…いや、売りたいならせめて洗いなよと思ったけどさ)車が売れたら追いかけるよ。

ミーティング・ポイントで待ってて!

そりゃどこのポイントだよ?