完全に野次馬根性としか言いようがないのだけど、ルクソール行きの電車に乗っていると(さすがにガラガラだったけど…。)俺は、そこで一体何が起こったのか見てみたいんだなと、自分の気持ちが分かってきた。だいたいテロが起こってまだ1週間足らずなのだ。
エジプトは砂漠だらけだと思っていたのだけど、そんなことはなくて、ナイル川を沿うように走っている電車からは川の流れが見える。カイロを離れると本当にのどかなのだけど、こんなところでテロなんて…やれやれと思った。旅をしていて、そりゃアウシュビッツが一番怖かったけど、何かしら人の悪意のようなものが吹き溜まっている場所や、死の匂いのする場所に行くことがある。行かなきゃいいのだけど、結局のところ、俺はおかしな好奇心が強いのだと思う。
ルクソールの小さな駅に着いてホームに降りると、ちょっと柄の悪いお兄さん2人が声をかけてきた。映画でも現実でもそうなのだけど、どうしてこういう柄の悪い連中というのはデコボココンビと相場が決まっているのかね?
おい、日本人だろ?小さい方がそう言った。英語の発音は意外にまともだ。
他にも日本人の乗客が電車にはいたようで(1人はカイロのホテルで一緒だった男だ。)2人の日本人がデコボココンビの後ろには立っていた。
あのな…俺たちのボスが日本人を連れて来いって言ってるんだ。ボスの屋敷に泊まってもらっていいし、金は要らない。食事も出す。
そんなうまい話があるかよと思ったけど、この2人は嘘を言っている感じではないし、もし密輸とか犯罪に使おうというなら、もっといいやり方があるだろう。2人の日本人は、なんだかおかしな話だから断ったのだけど、お願いだから来てくれ、ボスに俺たちが怒られると言われたそうだ。
歩いてすぐだと言うので、状況がマズくなったら逃げようと2人の日本人には耳打ちしておいて、ぞろぞろとデコボココンビの後をついていった。駅前には、テロに抗議するアピールが書かれた垂れ幕が至る所に吊るしてある。
路地の奥まったところにある、ボスとやらの屋敷はマルセイユあたりのリゾートホテルのようで、乾燥して風に砂が混じっているルクソールの町には不釣り合いだったけど、豪華なのは確かだ。
この門の前に立ってな。右手にカメラがあるから、ここで笑えばいい。そうしたら開けてくれるから。小さい方の男はそう言ってカメラに向かって手を上げた。
ヤバいと思ったけれど、面白そうだという好奇心の方が勝ったのよね。俺はいつもそうだ。