シンゴの旅ゆけば~!(138)ポカラの大事件④』

まぁ、日本国民の安全を守るのが大使館ということになっているけど、その日本国民にはバックパッカーは含まれていない。

そういう話はよく聞いていたからね。あんまり期待していなかったのだけど、とりあえずその時はお上に助けてもらうってのがいいと思ったのね。

金髪野郎も、俺たちもそうだけど、金なんか持っちゃいないしね。

日本語のできる、できたら日本人の方をお願いできますか。

珍しく電話はすんなりとつながって、俺は日本人スタッフを呼んでもらうことに成功した。

もしもし、何かありましたか?大使館員はそう言った。

金髪野郎にかわったのだけど、どうも隣で聞いていると、途中から警察に職務質問されているような状態になっていった。

丁寧な言い方って、結構怖かったりするのよね。

金髪野郎もしどろもどろだし…。

大使館員も起こったという事故そのもの、ネパール人が亡くなったという事実を疑っているようだった。

壊れたオートバイも、ご遺体も見ていないんですよね?何度か金髪野郎に同じことを確認していたから。

そうですか。状況は分かりました。最後に大使館員の男は、クールにそう言った。

どうしたらいいですかという金髪野郎の質問に被さるように、大使館員は逃げてくださいと言った。

今すぐにポカラを離れて、ネパール国外に出てください。インド国境がそこからなら近いと思います。

おお、すげぇ答えだ。

俺はなぜか嬉しくなったのよね。

公式な大使館のアドバイスが「逃げろ!」っていいよなぁ。

この時のことを思い出すと、今でもなんだか嬉しくなる。

パスポートと現金は金髪野郎が持って歩いていたから、話は早い。とにかく今からバス停に行って、インド国境に向かう方向のバス(つまり、南ってことだ)に乗る。

インド国境を越えたら、コルカタでもデリーでもいいからエア・チケットを買って日本に戻る。

幸いなことに、インドのビザを奴は持っていたのよね。

それでだな。

俺も、ホテルのオヤジも一致した意見があって、そのことを金髪野郎に言った。

あんたは目立ちすぎるからな。バス停を見張られているかもしれないし、まずはその頭をなんとかした方がいい。

え?

そういう顔を男はしたけど、オヤジはすでにバリカンを持ってきていた。