『シンゴの旅ゆけば~!(80)バラナシの葬送』④』

コルカタから電車に乗ってバラナシに向かった。クミコハウスっていう日本人のおばちゃんが経営しているホテルがあって、そこに行けば日本の本がたくさんあると旅行者から聞いたのだ。

バラナシの駅でリキシャ(昔の日本で言ったらリンタクのことです。つまり自転車タクシーね。)のおっさんから、クミコは死んだ。だからクミコホテルはないと聞かされた。ああ、よくある手口だなと思ったから、じゃあクミコハウスがあったところに行ってくれと言うと諦めたらしい。自分の知り合いのホテルに案内して、マージンをもらうってのはよくある話なのよね。

クミコハウスは当時のお金で1泊2食付きで280円だった。それはまぁ、いくらなんでも安すぎる気もしたのだけど、その辺の屋台でチャイを飲むと8円だったからね。まぁ、そのくらいが相場なのかもしれない。

日本に留学してきていた画家のご主人と恋をして、インドに移り住んできたクミコさんはいつもニコニコしていて、女優の京塚昌子さんみたいだなと思ったのだけど、まぁ今の若い人は知らないよね。けっこう長いことバラナシにいたから、すっかりクミコさんとも仲良くなって、ホテルの掃除を手伝ったり、夕食の材料の買い出しに行ったりしていた。シンゴ、いつもの食料品店に行って「マエダ」と言え。そうしたら出してくれるから。そう言われて細い路地の奥にある店に行き、おじさんに「マエダ」と言ったら小麦粉が出てきた。その日の夕食はお好み焼きだったのよね。

ホテルには日本人が一番多かったけど、北欧やらスイスやらいろいろな国のバックパッカーが泊まっていた。習いごとを長期にわたってしている人も多くて(ヨガとか、タブラーっていう太鼓を習っている人が多かった。)そのうちにみんな家族のようになる。北欧の確かスウェーデンだったと思うけど、背の高い女の子がいて、俺がバケツで洗濯していると、私も洗いものがあるから次にバケツを貸してくれと言う。いいよと答えて、洗濯ものを干していると、彼女は全裸で着ていたものを洗っている。いや、ちょっと待てよ…何か着ろよと言うと、何でよとむっとした顔をされる。

裸のままタバコに火をつけて、彼女はこう言った。神さまが作った身体なんだから、どうして恥ずかしがる必要があるのよ?

シンゴ、ちょっと来なさい。画家のご主人から呼ばれて行くと、長い棒を渡された。おまえは暇だし、本ばかり読んでいる。そうだな?いや、それはそうだろうけど…この棒はなんですか?屋上に洗濯ものを干していると、猿がやって来る。猿は人間の服を着ないだろうが、ふざけ半分で持っていってしまう。だから、おまえは時々猿を叩け。つまり洗濯ものが乾くまで番人をしろということだ。

本当に猿は次から次へとやってきて、棒を振り回すと逃げていく。猿の数が多すぎて読書どころではない。

何をやっているんだ俺は…?