シンゴの旅ゆけば~!(72)マフィアの屋敷にホームステイ②

どうしてここにいるんですか?そもそも、登ってくるの大変だったでしょうと訊くと、ラクダに乗ってきたと言う。さすがお金持ち旅行者だ。本当はカイロからルクソールに行く予定だったんだけどね。テロがあったでしょ。もう飛行機に乗った後だったから、旅行会社が急遽スケジュールを変更したのよ。カイロからロンドンに飛んで…ロンドン観光がメインってことになったのよね。

それはまぁ大変ですねとか言いながら、日の出を待っていたのだけど、これがね…観光気分で来ているのは俺たち日本人だけで、あとはみんなマジなのよ。一緒に登ってきた韓国人バックパッカーなんて、膝をついて祈っている。ああ、そうか。韓国人はクリスチャン多いからな。

あたりを見回すと、神父さんみたいな人が聖書を朗読していて、信者の人たちが目を閉じて聞き入っているとか、そういう敬虔なグループばかりだった。邪魔しちゃ悪いので、なるべく目立たないように隅に移動した。

太陽が登ってくると…たぶん巻き上げられた砂の効果なのだろうけど、光がぼんやりと滲んでいて、なんと言うか効果抜群の美しさだった。俺たち以外はみんな祈っている。号泣している方たちも多い。

俺は取り立てて信仰を持っていないので、さすがに泣きはしなかったけれど、なんだかしんみりとした気持ちになっていた。

イエス・キリストが生まれた教会だとか、お釈迦さまが生まれた町とか、何かの宗教の聖地に行くことは多いのだけど、俺が何かしら聖なるものを感じるのは自然の中なのよね。モーセが十戒を受け取った場所でなかったとしても、山のてっぺんで太陽の光と熱を感じていると、太陽がなかったら生きちゃいられないよな。太陽さん、ありがとうという気持ちになった。

ロンドンに向かうじいちゃん、ばあちゃんと別れ、大丈夫かと思ってしまうようなボロボロのバンでカイロに向かったのだけど、案の定途中で止まってしまい、修理だ何だでカイロに着いたのは予定よりも8時間遅れってことになったのだけど…まぁそんなものよね。