『シンゴの旅ゆけば~!(85)バラナシの葬送⑦』

クミコハウスにいた日本人の旅行者に誘われて、ガート(ガンジス川の河岸にある階段)にあるという、火葬場を見学に行くことになった。ちょっと元気になっていたセブリンを誘ってみたら、1回見たからもう十分よと断られた。

見るのは構わないが、写真を撮るなよと、ガートの入り口にいた男に言われた。ガートのあたりには頭を丸める床屋が何人かいて、それがまたカミソリがなまくらなんだと思う…客の頭からは、あちこち血が出ていた。剃髪料金は10円らしい。何でまた坊主頭にしているのかは後から分かることになる。

河原のあちこちに焚き火をするように木材が積まれていて、その幾つかからは煙が上がっていた。黒っぽくなっているけれど、火の中に足やら腕やらが見える。布でぐるぐる巻きにされているから顔は分からないけれど、あれは頭だよなって部分も燃えていた。もうもうと上がる煙の向こうで、人が燃えている。そりゃ火葬場なのだから、人を燃やすのはあたりまえで、何も生きたまま焼き殺している訳じゃない。ジャンヌ・ダルクじゃないんだから。そういうシンプルな事実なのだけど、それを見ているとやけにしんみりとした気分になった。

ああ、ちゃんと肉が焼ける匂いがするや。人間だって肉だもんな。

俺は本当に、根っこからバカなんだろうなと思うことが時々ある。アムステルダムでもう死ぬ寸前まで酔っ払って意識を失ったことがあるのだけど、その時俺は小田急線の車掌のマネをしていたらしい。白線の内側までお下がりくださいとか、次は登戸とかね。そんなこと言われてオランダ人は困っただろうな。

パチパチと人が焼けているのを見ながら、頭に浮かんできたのは…夕食にステーキ食べられるかなということだった。インドじゃ牛は食べないからステーキはないけどね。昔のバイト先にすげぇ豪傑女がいて、目黒の寄生虫館でサナダムシとか回虫を散々見た帰りにパスタを食べたって逸話があった。あいつだったら平気だろうなとか、バカなことばかり考えてしまうのを止められなかった。やれやれ。