『シンゴの旅ゆけば~!(80)バラナシの葬送②』

とりあえずコルカタのマリアホテル(バックパッカーには有名なのよ。)にチェックインして、インドに慣れることにした。病気になるとか、汚いとか、怖い話ばかり日本で聞いてきたのだけど、大したことはなかった。まぁ、いわゆるアンタッチャブルと呼ばれている人たちが路上生活をしているとか、バクシーシ(お恵みくださいという意味らしい)と言っちゃ手を出してくるガキ共がうようよいるとか、すげぇなって感じたことはあったけど、俺はだいたい5分で慣れるからね。

決してキレイとは言えない。それは事実だけど、なんだか懐かしかったのよね。うちの田舎が区画整理の工事で、爆撃されたような状態になっていた時のことを思い出した。死ぬほど汚い水が溜まった場所があって、その前を通って小学校に通っていたのだけど、あそこに落ちたら死ぬと言われていた。区画整理後にキレイに整地されて今じゃ住宅が建っているけどね。住んでいる人たちは、そのことは知らないのだろうなと、今でも思う。まぁ、コルカタの町って、拡大版の昔のうちの近所って感じだったから気にはならなかったのよね。

することなんてないから、あちこちコルカタの町を歩き回っていた。カーリーっていう怖い女神の寺院ってのがあって、願いごとをする時に生きているヤギを連れていく。それでまぁ、生贄として首を刎ねるのだけど、寺院の中をちょっと覗くと血まみれで(そりゃそうなるよな)時々ギニャーっていう断末魔の叫びが聞こえてくるから、中に入るのは止めた。そうそう、同じ声をそれから数年後にまた聞くことになるのだけど、それはヨルダンの焼肉屋だった。

肉屋の店先のピックアップトラックの荷台に、足を縛られたヒツジさんたちが詰め込まれている。そこにやけに恰幅のいい主婦のおばさんたちが買い物に来て、どういう訳か知らないがヒツジの舌をチェックする。うん、このヒツジにしようと決まると、店のオヤジがヒツジを奥に連れて行く。なんだか祈り声が聞こえてくるのだけど、その後ギニャーって声がして、しばらく経つとヒツジは肉になって出てくる。

ああ、この声ってインドでも聞いたな。その時そう思ったのよね。ヒツジさんたちの目の前に焼肉の網を並べてジュージュー焼いて食べるのだけど、考えてみたら酷いことしてるよな。アラビア語はほとんど忘れてしまったけど、肉屋のオヤジがこれを食えって持ってきた肉の名前だけは覚えている。「サッカーウィー」ヒツジの睾丸って意味だ。