『シンゴの旅ゆけば~!(79)バラナシの葬送①』

あんたって、悩みないでしょと時々言われる。まぁ、ないんだけど…。

だけど、悩みがないと言われるのって、考えてみたらアホだろって言われているような気もするのだけど。まぁ、アホか、俺は…。

とはいえ、悩んだことがない訳ではなく(そんな奴はいないよな。)20代の頃はそれなりに悩んでいた。たいてい女の子のことだったけど。でも、一番の仲良しだった叔父が、いきなり猟銃で心臓を撃つなんていうB級ハリウッド映画のような自殺をして、しばらく落ち込んだこともある。というか、怖くなったのだ。

悲しいとか、辛いとか、そういう気持ちではなく、俺と似たような性格をしていて、バカなことばかり言ってた叔父が自殺する(遺書もなかったから、理由はいまだに分からない。)のだから、これは下手をすると、俺もそういうことをする可能性があるかもしれない。そんなことを考えた。遺伝的に自殺しやすい傾向があるかもしれないし、自殺したくなるような細菌が空気中に漂っているのかもしれない。そういうことを考えて悶々としていた。

まぁ、そんな時にインドに旅をすることになったのだけど、結論から先に言ってしまうと…その悩みのようなものは消えてしまうことになった。

問題が起こる。めちゃくちゃ欲しいデニムジャケットとか、何かあったとする。①買う。これが一番シンプルな解決法なのだろうけど、値段が高いとか、ビンテージで滅多に見つからないとかで①が実行できないことはよくあるだろう。でもね、もう一つ解決策がある。②欲しくなくなるという手もあるのよ。

インドで起こったことはそういうことで、叔父に何かしてあげられたのではとか(何もしてやれることなんてないことは今はよく分かる。)自分も同じように派手な自死をするとか(何があってもしないだろうことも今はよく分かる。)そういうグチャグチャした気持ちのようなものが、どうでもよくなったのだ。人はいつか死ぬ。騒ぐこたぁない。そういう心境になったのね。

その時は初めてのインドで、コルカタという町に飛行機で着いたのだけど、旅の始めからぶっ飛んでいた。だいたい飛行機から降りると、そのままターミナルに通じている通路を歩くか、階段を降りて滑走路に迎えに来ているバスに乗るかのどちらかだと思うのだけど、コルカタの飛行場は違った。

階段を降りて滑走路に降り、そのままターミナルビルまで歩くのだ。ビルの手前に会議室にあるような長机が2つ並んでいて、入国審査官が座っている。長机から垂れ下がっている紙にはマジックインクで書いた「Welcome to India」の太い文字があって、風にゆらゆら揺れている。

とんでもねぇとこに来たな。インドの最初の感想はそれだった。