シンゴの旅ゆけば~!(76)マフィアの屋敷にホームステイ⑥

日本人か?

そうだと答えると、おじいさんは頭を下げた。エジプト人のバカな若いのが、あなたの国の人を殺してしまった。本当に申し訳なく思う。

何かが起こる。誰かが誰かを殺すとか…。俺たちだったら、それは誰かがやったことで、自分には何の関係もない。そう思う。同じ日本人だからとか、同じ村の奴だからとか、自分が所属している何らかの共同体とでもいうもののメンバーが加害者だからといって、詫びることはないと思う。お悔やみくらいは言うだろうけど。

だけど、エジプト人はそうする。私たちの側の人間が、あなたたち側の人間を害した。そのことについて本気で詫びるし、何か償いができるのならしようとする。日本人を家に泊めるという、ボスのおかしなアイデアの根っこにもそれがあるのだと思う。

この遺跡は、ちょうどハトシェプスト女王葬祭殿の真裏にあたる。岩山を越えなければいけないがな。あの日、銃声が聞こえた。これは何かが起こったと思ったから岩山を登って見に行った。流れ弾が膝に当たって、幸いなことに肉を抉っただけだったが、私がそこで見たのは地獄だったよ。そんな恐ろしい光景を見たことは、生まれて今まで一度もない。私はこちらに向かって逃げてきた何人かの観光客と一緒に崖を降りた。奴らは人を殺すことに夢中になっていて、私たちが逃げ出したことに気づいていないように思えた。

この遺跡の入り口にはシャッターがあるだろう。あれを閉めて、息を殺してじっとしていた。だから助かったんだ。

仲間や顔見知りも、亡くなった遺体の中に入っていた。私の甥もいたよ。

どう返していいのか分からない。何を言ったらいいのか分からない。だから黙っていた。

そもそも俺はなんでここに来たのだろう?

報道の仕事をしている訳ではないし、何かの取材でもない。恐ろしくネガティブな意識のようなものに触れることになるのは分かっているのに、なぜ来たのだろう?

その答えは今でも出ていないけど…きっと人間という種を知りたいのかもしれない。俺が所属している生物種が何をするのか、何ができるのか、それを知りたいのかもしれない…そう思っている。