『シンゴの旅ゆけば~!(65)世界一の親日国その1』

どこの国に行っても、だいたい日本人ってのは好かれているように思うのだけど、アラブの国あたりだと東アジアの国というのがよく分かっていないみたいで、モロッコやエジプトじゃ、そうか日本人か、ジャッキー・チェンはよく知ってるぞとか言われる。サハラ砂漠で俺についたニックネームはジャッキーで、カンフーポーズがウケまくっていた。とほほほ。

それはともかく、じゃあ世界一の親日国はどこかと言ったら、俺はたぶんパラオじゃないかと思うのよね。

パラオで仲良くなったのは、元国会議員だったというオヤジで、うちの母方のじいちゃんによく似ていた。いろいろと案内してくれたのだけど、ビールを買いにスーパーマーケットに行くと、ありとあらゆる物が売られていて、見て歩くだけで楽しかった。土地の組成の関係らしいのだけど、葉物野菜がパラオでは育たないらしくて、全てフィリピンから輸入している。だから一番高いと聞いて、スーパーで見てみたら本当にそうだったのよ。パラオじゃサラダは止めておいた方がいい。

女性の下着を売っているコーナーを通っていて、ふと看板を見るとセールをやっている。「CHICHI-BAND SALE」と書いてあって、え…CHICHI-BANDって乳バンドのことかと思った。昭和初期のブラジャーはそう呼ばれていたらしい。

パラオに行くまで知らなかったのだけど、パラオは日本が統治していた歴史があるらしくて(不勉強で申し訳ないなぁ)公用語はパラオ語と英語だけど、日本語を話せるお年寄りも多いのだそうだ。

泊まったホテルのお兄ちゃんが「SATO」という名前のプレートを付けていて、おじいさんがお世話になった日本人の名前が由来だと言っていた。ただ、彼はファーストネームの方が「SATO」だったのよね。

例の元国会議員のオヤジは、スーパーマーケットの隣の巨大な空き地でタバコを吸いながら、いや、ここは思い出深いところなんだよと言った。なんだかしんみりした話が始まりそうだったから、うんうんと隣に座って話を聞いたのだけど、ちょっとそれはどうなのという話だったのよ。

選挙の時に票を売り買いするのがこの場所なんだ。何期か国会議員をやっていたんだけどね、ある時の選挙から1票7ドルに値上げになった。それまでは5ドルだったんだ。さすがに7ドルは出せなくてね。それで議員じゃなくなったんだ。

いや、あんた物凄いこと言っているぞ。そう思ったけど、口には出さなかった。

オヤジは車に乗れと言って、山の方に向かっていく。今から行くところはパラオの伝統工芸を作っている工房だ。何百年も前からパラオの生活を彫刻している。芸術的なものだけど、気に入ったら買うこともできるよ。

パラオはハワイと似た感じの風が吹くのだけど、なんだかちょっと違う。海の匂いもちょっと違う。どう違うのかと言われても説明できないのだけど、風とか海の匂いとか、自然は場所によって少しずつ違うのよ。

ところで、その伝統工芸は何て言うの?

うん、「ITABORI」だ。

いや、あんた。それは「板彫り」だろ、たぶん。日本語じゃね~か。そう思ったけど、それも口に出さなかった。

パラオの国旗ってな、ブルーの地にイエローの円なんだよ。なんでだか分かるか?

まさか日本の真似をしたとか?

そう。日本の国旗の円は赤だろ。あれは太陽だ。パラオの円は月だ。だけど、日本に敬意を表してイエローの円はほんの少し左にずらしている。

日本が統治していた歴史があることは、この時すでに聞いていたから…頭の中は「?」でいっぱいになった。ホテルの「SATO」くんみたいに、個人的に世話になったとか、そう言うことはあったとしても、だいたい統治された側というのは、統治していた側を嫌うものじゃないのか?

日本には恩がある。

公職選挙法に堂々と違反しているオヤジは、そう話し始めた。