『シンゴの旅ゆけば~!(63)掃除とお悩み相談その1』

タイの国境を超えて、マレーシアに入ったばかりの町だったと思うのだけど…バスで早朝に着いて、まぁこれといって行きたいところもないので、ホテルを探すことにした。

その時って、タイじゃナムケンサイ、マレーシアじゃアイスカチャンって呼ばれていたけど、要するにカキ氷を食べてお腹をこわしてしまっていたのよ。

どこのカキ氷屋でも、ビビットな色の具がずらっと並べられていて、グリーンの寒天みたいなのとか、表面はぬるっとしているのだけど、中には日本でいうところのクワイみたいなのが入っているのとか、真っ黒いゼリーとか、これは一体どういう味がするのか全く分からない中から3つくらいを選ぶ。

氷には練乳とたいてい苺シロップみたいなのがかかっていて、マジかよと思うくらい甘いのだけど、これがクソ暑い東南アジアで食べると美味しいのよね。小豆やコーンも入っているからお腹もいっぱいになるし。

まぁでも、バスに乗る頃には下痢も止まっていたのだけど、なんだかげっそりしていたのよ。

リュックを背負ってフラフラ歩いていたら、やけに元気なおっさんから声がかかった。プラスチックのベンチに座ってタバコを吸っていたのだけど、どうやらそこはホテルらしかった。

ブレックファーストはフリー、いつでもコーヒーはフリー、今から泊まっても今夜のホテル代だけでいいよと言うので、はいはいとおっさんの後ろにあるボロボロのビルの階段を上がっていったのだけど、意外にも客の入りはいいみたいで、欧米人がキッチンでパンを焼いていた。

でもねぇ。

まぁ、そんなに長居するつもりはないし、どこだってよかったのだけど、案内された部屋はあまりにも汚い。散らかっているというのではなく、掃除してるのか、ここはっていう感じだったのよ。

おっさん(ハッサンって名前だったと思う。まぁ、マレーシアはハッサンさんだらけだけど)は、じゃあそういうことでとキッチンに降りていってしまった後だから、まぁいいかと思ってリュックをベッドの隣に降ろした。

当時俺のリュックには、タイで買ったホウキが縛ってあって、ホテルを個人的に掃除していたのよね。これは、俺がキレイ好きだということじゃなくて、虫が怖いからなのよ。

それでまぁ、とりあえず一度ベッドカバーをはがし、マットレスの上をよくよくチェックした。この雰囲気だと、南京虫がいるかもしれないからだ。最近話題のトコジラミのことなんだけど、こいつに噛まれると後々まで痒いのよ。その上、寝ている間に噛んでいくから、だいたい10箇所以上同時に噛まれることになる。ひどい時は1ヶ月くらい痒い。

虫はいないみたいだから、シーツをバンバンとはらってから付け直し、床を丁寧に掃いた。ちょっとこれをかけて寝るのはどうかなと感じるブランケットだったから、それは使わないことにして、寝袋を出した。

だいたい、タイのアパート(友達の家にしばらく転がり込んでいたことがある)というのは、掃除機なんてない。俺が持ち歩いている、やけにふわふわしたホウキだけあって、部屋中のゴミを外の廊下に掃き出すというシステムになっている。管理人さんが廊下を掃除するから、まぁポテトチップスの袋くらいなら、一緒に掃き出してしまって構わないのよ。

マレーシアはよく分からなかったから、とりあえず出た埃は廊下のドア前にまとめておいた。

それでまぁ、ぐっすりお昼寝したのだけど、夕方になってビールでも飲もうと思って表に出たら、またハッサンがタバコを吸っている。

部屋を掃除したよ。あのブランケットはずっと洗ってないだろ。ちょっと汚いから使わなかったよ。

そう言うと、今夜はオマエしか客がいない。ビール買ってくるから、一緒に何か食べようと言う。

それはいいと答えると、なんだかやけに元気に出かけていった。ジュプン(Jepun 日本人のことね)の好きそうなもの買ってくるよ。

それでまぁ、キッチンで、チキンの焼いたのとか、中華の炒め物みたいなのを肴にしてビールを飲んだのだけど、ハッサンには辛い過去があるそうだった。まぁ、辛い過去って言ってもよくある話なのだけど…要するに客の日本人の女の子としばらくつきあっていたのだけど、タイに戻った彼女からハガキがきて、それっきりになっているそうなのよね。

タイに語学留学していて、スチューデントビザを更新するのにマレーシアに出国する。よくある話だ。ここは国境からすぐの町だから、きっと彼女は俺みたいにここで一泊したのだろうな。

ちょっと彼女がくれた手紙を見てくれないか?

やけに親切にしてくれると思ったら…同じ日本人の意見を聞きたいのね。