『シンゴの整体(52)この世で一番すげぇ整体!③』

椅子に座ったまま、俺の周りをうろうろしながら、ちょっと押し倒してみたり、突いてみたり、捻ってみたりと、あれこれやっているパウロを見ていたのだけど、あ、何かわからないけど、気功みたいなのを使っているだろうってことはわかったのよ。

触れられると、身体の内側に熱が広がっていく。さらに、痛いところとか、悪いところとか、狙っているのは肉体じゃないなってことも分かった。

とか考えていたら、椅子が吹っ飛んだ。

椅子の足と、背もたれの一部が緩んで、バラバラになって崩れ落ちたのだけど、俺はそのまま後ろに倒れ込もうとしたところを(当然そうなる)パウロに支えてもらって、尻餅をつかずに済んだ。

あ、壊れちゃったかぁって感じでパウロが椅子を見ていて、うん、じゃあそのまま立ってろと身振りで示した。

だから、その後10分くらいかな。ずっと立ったまま施術というか、仙術みたいなのを受けたのね。

しかし、椅子が壊れるって、どんなパワーだよ?

立ったままってことは、パウロに押したり、突かれたりされると、自分で支えなきゃいけないわけで、身体を定位置に戻した瞬間に、新たな突きが逆方向から入ったりして、それでさっき書いたように何かのエネルギーを身体の中に残すとか、身体の反対側に突き抜けるように使ってくるのよね。

体験しながら、よっしゃ自分の整体に取り入れるために考えて学ぼうなんてことは無理なのよ。まるで、嵐の中で船の甲板に立っていて、とにかく倒れないだけで精一杯って状態だったから。

あ、ほれ、こんなものかなって感じで整体はいきなり終わり、動いてみなさいって言われて(まぁ、このやりとりはスペイン語だから、俺には身振り手振りしか分からないのだけどね)ちょっと動き出した瞬間に身体が異様に軽いことに気づいた。

腰も膝も痛いところはどこもない。

すげぇなって思いながら、これはまるで北斗神拳だなって漫画のことを思い出した。

しかしまぁ、何なんだ、これはってつくづく考えてみたのだけど、こういうのって考えても無駄なことは分かっていて、だいたい初めての経験なんだから、自分の身体に聞いてみるしかないのよね。

で、何が起こったのかってことをじっくり感じてみることにした。