シンゴの整体(45)つながっている②』

だいたいが凝り性というか、のめり込むとご飯も食べないでやってしまうタイプなので、今も整体のことばかり考えている。

う~ん、そう言ってしまうと、すげぇ真面目な整体師のように思うだろうけど、正確にはそうじゃないのよ。

かなり強制的に、整体のことを考えざるを得ないような状況に引っ張られていくというか、そういうことなのね。
じゃあ、誰が引っ張っているのかと言ったら、それはまだ分からないのだけどね。

常々思っているのだけど、人間には2種類のタイプがいて、007タイプとダイ・ハードタイプに分かれている気がするのよ。

007ってのは公務員なのね。
こういう悪い組織がいて、そいつをやっつけないと世界が滅ぶとか、そういう目的も敵も明確になった状態で戦っている。

ダイ・ハードの方は、たまたま奥さんを迎えに来たらテロリストに襲われて…要するに巻き込まれちゃってるのよね。だから、どうして俺がこんな目に会うんだって、ずっと愚痴を言いながら戦っている。

俺は完全にダイ・ハードの方なのよ。

そもそも整体師になったきっかけだって、チェンマイのホテルでビールを一緒に飲んでいたアメリカ人に、シンゴ、暇ならタイマッサージ習ってみたらどうだって言われたことだからね。

ワンディって師匠になるおばさんのところに行ってみたら、まず手書きの看板の英語の綴りが間違っていて、マッサージじゃなくて、マッサゲみたいになってたのよ。

ワンディがペンキで書いたそうなのだけど。生徒は1人もいないから、マンツーマンで教えたげる。

あんた、私の真似してやってみなよってワンディが言って、へいへいってワンディの足の経絡を押していたら(タイでは、経絡をセンと呼ぶ)彼女のお股に俺の手の甲がコツンと当たってしまった。

そしたらワンディが笑いながら、たどたどしい英語で、シンゴ、私たちさっき会ったばかりよ。

まだ早いわって言ったもんだから、2人で大笑いしたんだよね。それで結局整体師になったんだから、人生なんてわからないもんよね。

今もそうなのよ。

本を読んでいても、映画を見ていても、なんだか整体の技術とか、人の身体に触れる時の心構えというか、何かしら仕事につながるヒントのようなものが不意に飛び込んでくる。

「つながっている」ってのが、俺にとっちゃ大事なことなのよね。