『シンゴの整体(44)つながっている①』

仕事っていろいろあるけれど、俺も若い時は海外をフラフラしてお金がなくなると日本に戻ってきてバイトしていたから、そのうちのいくつかは経験があるのよね。

生まれてはじめてパソコン買った時のことを思い出してほしいのだけど…パソコンには、掃除機とか洗濯機みたいに説明書って付いてないのよ。

とりあえずスイッチ入れて、ああでもない、こうでもないとやっているうちに使い方が分かってくるのだけど、バイトって、その感じに似ていると思う。

18歳のガキに、いったい自分には何が向いているのかなんて、分かりようがないから、とりあえず興味を持ったものに応募して、やっているうちに、ああ、これは向いているなとか、これはダメだなということが分かってくるからね。

俺って、こういう人間なのかってことが分かってくるということだ。

向いていたのは、料理を作ることだったってのが、自分でも驚きだったのだけど、伊勢丹の地下の厨房で黙々と唐揚げをつくって、焼き鳥を焼いてということを随分長くやった。

本当にあるのかどうか知らないけど、漫画によく出てくる中国武術に毒手ってのがあって、毒の入った壺に手をつける修行をずっとすると、その手に触れられただけで毒が回るのだけど…あの頃の俺って、鶏肉にニンニクと生姜、塩コショウに醤油をぶち込んで混ぜるってことをずっとやっていたから(クリスマスあたりにゃ30キロとかね)ある時手の匂いを嗅いだら唐揚げの匂いがしたのよ。

自分の手の匂いを嗅ぎながらご飯を食べられそうなくらいだったから。

反対に向いてなかったのは、ガードマンとか、ちょっと高級な服の販売とか、黙って立っている時間が長いやつだったな。新宿新都庁の建設現場で働いた時に、日給をいきなり4000円上げてやると言われて、喜んでいたら…テストがあると言う。

安全帯をつけて17階に上がると、壁なんてまだできてなくて、すげぇ風が吹いている。

兄ちゃん、安全帯つけねぇとダメだろって怒鳴られて(要は高所の仕事だったのよ)いや、テスト不合格でいいです、無理ですってエレベーターで降りたことがある。高いところもダメだな。

で…何の因果か整体師になったということなのだけど、整体はものすごく好きなのね。そういう話を書きます。