インドのバラナシだったと思うのだけど、同じホテルにいたアメリカ人から面白い話を聞いた。
アーユルヴェーダというインドの古い医学があって、その達人と言われている先生がこの近所に住んでいる。
大きな町にいたそうだけど、歳をとってバラナシに引っ越してきたらしい。そういう話だったのよ。
その時はタイで肋骨を折るとか、ダージリンで赤痢になるとか、体調的には散々だったので、ちょっと行ってみようと思ったのね。
後々その技術を脈診と呼ぶことを知ったのだけど、まずは脈をみられた。
続いて舌。
ベーって出してと白衣のじいさんに言われた。
これは舌診(ぜっしん)と言うらしい。先生はインドの聖者みたいな雰囲気の、背骨に板でも入れてるんじゃないかってくらい姿勢のいい人だったな。
最後に目の下の赤いところを見せてと言われて、アッカンベーみたいにしたのだけど、先生はうん、うん、そうかと一人で納得するように頷いて、こう言った。
7歳か8歳の時だけど、事故か何かで意識不明になったでしょう。ある意味ではその時に一度死んだようなことがあった。そうですね?
そりゃまぁ驚くよ。なんでものの1分でそんなことが分かるのよ?真面目な話7歳の時に事故で頭蓋骨陥没骨折になって、3日間昏睡になった。頭蓋骨は今でもそのままになっている。
俺の英語なんかインチキもいいところなので、知っている単語を並べるようにして、先生って超能力があるんですか?ってそう言った。そうしたら、先生はマジで怒ってしまって、いいか…と強い口調で言われた。
これは超能力とか、そういう怪しいものじゃなくて、れっきとした医学なんだよ。
これくらいのことは練習次第で誰でもできるようになる。
まさか、そんなことはないだろうとは思ったけど、ああ、すみませんでしたと謝っておいた。
脈診という技術を初めて見た瞬間だったのだけど、実はね、まずは俺の整体って、どこか悪いとことがありますかって質問した後、たいがい脈診をすることにしている。
腰が痛いと言われたら、ヘルニアとか脊柱管狭窄症なのか、骨が歪んでいるのか、食べすぎたのか、お酒の飲み過ぎなのか、怒ったのかとか、そういう細かなことを脈診で確認しているのね。