シンゴの整体(37)駆け出しの頃⑥』

300円のバンガローを借りて、結構長いことピピ島にはいたのだけど、本当にのどかというか、静かな島だった。その後映画の撮影に使われて、大観光地になったらしいけど。

ロング・ビーチでビールを飲んでいると、ゴザを持ったおばちゃんが近づいてきた。タイ・マッサージをしない?

それでお願いすることにしたのだけど、とにかく暑いから、巨大な熱帯の樹木が影を落としているところにゴザを敷いて、そこでゆっくりと施術をしてもらった。時々物売りがやってくるから、ちょっと休憩して、おばちゃんにシェイクを奢ってあげた。仲良く並んでシェイクを飲んで、じゃあ続きをやろうかという感じで、また施術が始まる。

そうこうしていると、太陽が移動するから木陰も移動していく。ちょっと暑くなってきたからゴザを動かしてという感じで、何度か木の周りを回るように移動して施術を受けた。

もうこれ以上はリラックスできないぞってくらい、最初からリラックスしているのだから、ちょっとした指の圧でも、ビビビと感じる。おばちゃんは英語ができないから、ほとんど会話をしなかったのだけど、ああ、この人は優しい人なんだろうなということは指先から伝わってくる。

ああいう環境で整体するのが、夢というか、理想なのだけど…似たようなことをさせてもらったことがあるのよ。

公共交通機関がまったくない。今でいう限界集落の公民館(1日借りて20円だった。いや、日本の話ですからね。)にマットを敷いて待っていると、野良仕事の途中で、じいちゃん、ばあちゃんが寄ってくれる。ちょっと腰がねぇとか、肩が凝ってねぇとか、してほしいところを施術して、次に待っている人がいなければ、結構長めに、誰かが順番待ちをしていたら、ちょっと短めにして、1日で10人くらいのお年寄りに施術をする。

何かしら食べるものを持ち寄って、整体をしている隣で寄り合いのようなものが始まることもあった。来る人たちがみんな火事にでもあったのかと思うくらい焦げ臭い日があって、どうも村人総出でお茶を焙煎していたとか、いろいろあったなぁ。

俺は本当に人に恵まれているというか、優しくしてもらったと思うのよ。