『シンゴの整体(34)駆け出しの頃③』

そうこうしているうちに、整体のお客さんもたくさん来てくれるようになったのだけど、介護と本屋のアルバイトと合わせて、3つのことを毎日こなしていくだけで、本当にヘロヘロになってしまった。

ちょうどその頃、車のハンドルを持つこともできないくらい右の親指が痛くなって…腱鞘炎なのだけど、とても整体なんてできないので、予約してくれていたお客さんに謝って、しばらく休むことにした。

手のひらの真ん中あたりにある「労宮(ろうきゅう」)」というツボから「気」というと胡散臭い話になるけど、エネルギーが出てくるから…その真上の中指というのは特別な指だ。そうインドで教わったのだけど、確かに他の指とはお客さんの身体に触れた時の感覚が違うし、できる施術も中指が一番多い。

だから中指を使うことが多かったのだけど、腱鞘炎になったのは親指なのよ。なんで?と思ったのだけど、謎は解けず…自分で自分に腱鞘炎に適した施術をしようにも、ちょっとした振動だけでも痛いのよ。

レントゲン技師をしている同級生がいて、彼が勤めている病院の先生がちょっと不思議な人だから来てみればと言われて、本当に久しぶりに病院に行くことにした。もともと博多だかどこかで名医と呼ばれるような先生だったのだけど、人間関係に疲れたとか、経営者と折り合いが悪かったとかで、うちの田舎には趣味の釣りのために引っ越してきたそうで、ああ、なんか面白そうな男だなと思ったのよ。やる気ゼロって態度で、白衣さえ着ていなかったけどね。

ああ、あんたな、中指をかなり使っているんだな。何の仕事だ?

先生にそう質問されたので、整体師だと言うと、変わった技術を使うんだろうなと言われた。それで、ちょいちょいと痛み止めの注射を撃ってくれながら…いいか兄ちゃん、人間の身体ってのはな、些細なことが大きな結果になるようにできているんだよ。そう言われた。

あんたはな、中指を使うときに親指を支点にして、手首をひねっているんだろうな。その時に親指を外に広げている。だから腱鞘炎になった。今後は親指を内側に入れるようにしたらいい。支点にするのに指を広げなきゃいけない理由はないぞ。

その後指を痛めたことは一度もないのだけど、この時に何かを知ったのよね。今でも新しい技術を研究しているけれど、この先生の言葉が基本になっている。