ユダヤ難民の子どもたちをイギリスに送り届ける。そのためにあらゆる手立てを尽くすのですけど、ポーランド侵攻によって最後の列車は出発できなくなるのです。「last train」という言葉が何度かセリフで出てくるのですけど、来るはずのない列車を駅で待ち続けるニコラス・ウィントンの姿だけで、また泣いてしまうのです。
50年が過ぎているのに、救えなかった子どもたちのことを思い、悔やみ続けるニコラス。老いたニコラスを演じているのはアンソニー・ホプキンスなのですけど、もう本当に恐ろしくなるくらいの演技を見せてくれます。過去を振り返って、一瞬見せる表情が(それは根源的な怒りの上に、何層にも重ねられた複雑な感情を表しているのですけど)レクター博士と重なってしまって、ああこの人はやっぱり凄いなとつくづく感じたのですね。
この映画にテーマがあるとしたら、それはきっと「終わらせる」ことでしょうね。プラハのシナゴーグだと思うのですけど、ラビ(ユダヤ教の聖職者)がニコラスにこう伝えるシーンがあります。古いユダヤの格言なのだそうですけどね。
Don’t start what you can’t finish.
終わらせられないことは、始めてはいけない。映画の訳では「始めたことは、終わらせなければならない」となっていたと思います。
『ゴジラ-1.0』のラストで「浩さんの戦争は終わりましたか?」と典子が語りかけるシーンがありましたけど、終わらせることというのは、本当に難しいのです。ゴジラが上陸したのは1947年5月の設定ですから、終戦から2年経っても主人公の心の中では戦争が終わっていなかったのですね。