『時間の終わりまで③』

自分は理論物理学者としてコロンビア大学で教えている。
『エレガントな宇宙』はベストセラーになったし、マスメディアでも知られている。
そういう自分の築き上げてきた業績を、誰も知らないことになってしまうなんて…意味がない。

彼はそういう事実に憤っている訳ではないのです。
もっと本質的な何かに、ある種の恐怖を覚えている。意味の消失を感じとっている。

哲学者のサミュエル・シェフラーは、若干シナリオは違いますけど
(あなた自身が死んでから30日後に、残りの人間が全て死ぬことを知ったら、
あなたはどう反応するだろうか?)このことについて書いています。

「われわれが何に関心を持ち、何にコミットするか。
何に価値を置き、何を重要だと考えるか。何が大切で、何をやるに値すると思うか。
こうした判断や感覚はみな、人間の暮らしそれ自体は繁栄して続いていくのが当然とされる状況下で形成され、保持されている。(中略)われわれが人類の未来を必要とするのは、ものごとはわれわれの概念のレパートリーの中に位置を確保すればこそ意味を持つと考えるからなのだ。」

確かにそうですね。意味があるとか、
やりがいがあるという感慨を引き起こすのには、
この世界が続いていくという前提が必要です。

自分が立っている足元がガラガラと崩れ落ちていく。
そういう種類の恐怖と、この感慨は近しいのかもしれない。

人間は、天文学的な距離や、無限に近いような未来の時間をイメージすることができない。そのことが本質的に関わってくると思うのですけど(フォーチューン・テラーに3年後の未来を占ってもらうことはあっても、200年後の未来を占ってもらう方はいませんからね)

ビッグバンから始まる宇宙の歴史の中で、人間という種が存在できる期間というのは、本当に短い。もうイメージするのが不可能なくらい短い期間でしかない。

ブライアン・グリーンは、そのことを改めて考えた結果…
素敵な結論に辿りつくのです。