『墓泥棒と失われた女神』のパンフレットを買ったのですけど、それによるとモチーフの一つ
になっているのは、ギリシャ神話の「オルフェウスとエウリュディケ」なのだそうです。この神話は不思議なことに、日本神話のイザナギ、イザナミの話とそっくりで、死者の国に妻を迎えに行ったのだけど、地上に戻るまで振り返ってはいけないというタブーを破ったために取り戻すことに失敗するというストーリーなのです。
エトルリア人の墓を暴くことで生計を立てている墓泥棒(イタリア語でトンパローリ)が現実にいた地域(トスカーナの田舎)で生まれ育ったアリーチェ・ロルヴァケルが、子供時代に聞いた地下遺跡の話の記憶と、神話の記憶。それに加えて、この映画には映画的な記憶も散りばめられています。
ああ、そうか、そうかとパンフレットを見て頷いてしまったのですけど、彼女はロッセリーニの『イタリア旅行』やアニエス・ヴァルダの『冬の旅』からインスピレーションを受けているそうです。このシーンって、あの映画に似ているよねと思ってしまうシーンもありましたし。
たくさんの記憶をシャッフルしまくったような、記憶の坩堝から立ち上がってきた『墓泥棒と失われた女神』で、アーサーが降りていく地下は、その記憶を超えたところにある…村上春樹が地下2階と呼んだ場所なのですね。
静けさに満ちた死者のための空間です。
オルフェウスもイザナギも、地下への降下はイニシエーションの意味も持つのですけど、結果として目的を果たすことはできない。
でも、この映画ではアーサーは失った女性と再会することができる。
他界への扉を開けて目的を果たすためには、アーサー自身が変化する必要がある。この映画の中のルールはそう設定されているのですね。