そこのあんた、日本人だよねと声をかけられたのだけど、振り返ってみると食事の会場で何度か見かけたことのある南米の女性だった。
日本語できるの?と言うと、実はね、若い頃にニューヨークで和食の調理人と結婚していたのよと話してくれた。
長男は日本語の名前なのだけど、離婚してチリに戻ったから、今は日本語なんて忘れているけどね。
それでまぁ、いろいろと当時のニューヨークの話なんかをしていたのだけど、結構怖いことを言われたのね。
ねぇ、シンゴは人に触れる仕事をしてるでしょ?ああ、整体をしているよ。
そう答えると、彼女はこう言った。
体調が悪いとか、心の調子がおかしいから整体を受けにくる。
あなたはそういうネガティブなエネルギーの一部を引き受けている。
まぁ、自然と処理できるみたいではあるけれど、それでも身体に残るものはあるよね。
まぁ、別に今のところどこも悪いようには思わないけど、まぁあるのかもしれない。
私とマリアの儀式を受けなさい。あなたにはきっと必要よ。
彼女はカローラといって、その後日本に来たり、彼女のナビゲートでマチュピチュを旅したこともある。
]相棒のマリアさんは当時80歳を越えていて、彼女がスペイン語の他に話す言葉(地元の古い古い言語だそうだ)は同じチリ人のカローラにも分からないそうだった。
彼女はあの言語の最後の話者の一人なの。彼女を含めて、残っている数人が亡くなったら、その言葉は地球から消滅してしまう。
それって悲しいことよね。カローラがそう言ったのがやけに心に残っていて、その夜はホテルに戻っても、そのことばかりを考えていた。
恐竜が絶滅したように、ドードー鳥が絶滅したように、言語も絶滅する。
それはあたりまえのことではあるのだろうけど、なんだか奇妙なことのように思えた。
言語が絶滅するということは、その文化も絶滅するということで、英語が消滅したらシェイクスピアを読める人間はいなくなるということだよな。
でも、ヒエログリフのように、誰かが読み方を研究して復活する日が来るかもしれない。
でも、日常的に話されることはないよな。そういうことを考えていたのよ。
言葉の絶滅なんて話を初めて知ったからだね。死語なんて生やさしい話じゃなくて、こちら死言語なのだ。