『陸の上の魚』

アインシュタインが、こんな言葉を残しました。

人は皆天才だ。しかし、魚の能力を木登りで測ったら、魚は一生、自分はだめだと信じて生きることになるだろう

つまり、魚は泳ぎの天才ですが、陸に釣り上げられてしまったらその能力を発揮することはできない。それだけでなく、ああ、自分はダメだ、ダメだと思うことになるということですね。

修道女でもあった渡辺和子さんが書かれた『置かれた場所で咲きなさい』という本がありますけど(ベストセラーになりました)たまたま陸の上に置かれてしまった魚は、どうしたらいいのか。そこで咲けと言われても…きっと魚は思うでしょうね。

ところで、陸の上にも魚はいるのです。

陸の上にいる魚…なんだと思いますか?

答えは、カピバラです。

ヨーロッパ人が南米にやってきて、そこにはカソリックの神父さんたちも含まれていました。

カソリックでは、四旬節(灰の水曜日から復活祭前日までの40日間)は、イエスが40日間荒野で過ごし、断食したことを偲ぶ期間で、当時は特定の動物の肉を食べることが禁じられていました。

でも、ベネズエラにいた神父さんの中に、どうしても肉絶ちができない人たちがいたのだと思います。

足に水かきがあり、泳ぎが上手なカピバラを見て、妙案を思いついたのでしょうね。

この動物を魚に分類してはダメだろうか? と。

彼らは、それを手紙にしたためバチカンに送り、1784年に正式に承認されました。

ですから、バチカンの見解では、カピバラは魚なのです。

陸の上にいる魚であるカピバラに、置かれた場所で咲いていますかと訊いたら、そんなことはどうでもいいよ…とか言いそうです。

カピバラは、仲間と争わない、ほぼ唯一の動物なのだとか。他の種に対しても、我関せず。他の動物が頭に乗っても、平然としています。動物界のお釈迦さまと呼ばれているそうですよ。

どこにいても、自分でいること。それが一番なのかもしれないです。

            撮影カメラマン 松原充久