名付けてしまった瞬間に存在してしまう。幽霊というのはそうして現れるのですけど、同じようなことが医学の世界にも多いのです。
なんだかやる気が起こらない。朝起きるのが苦痛になる。涙が止まらなくなるとか、感情のコントロールができなくなる。楽しいとか、心が湧き立つような感情が感じられない。
これは一体なんだろう。自分は一体どうしてしまったのだろう。そう疑問に思って、病院に行くと「うつ病」だと診断される。精神科や心療内科に行くことにしたのですから、あなたは現代医学を信じているでしょう。そして、医師というのは現代医学という理論の中で必須の役割を果たしている存在です。その医師に「うつ病」と名付けられ瞬間に「うつ病」は存在してしまう。もちろん幽霊と違って医学的な根拠はありますよ。「うつ病」と幽霊が同じだと言いたい訳ではありません。
でも、名付けられた瞬間にドッと「うつ病」の症状になだれ込んでしまう方もいるのです。
そういう話をスタッフとしていて、つくづく言葉というのは大事だというか、注意して使わなければいけないなと改めて思ったのですね。
以前も書いたことがありますけど、昔の日本人というのは世界を2つに分けていたのだそうです。
「こと」の世界と「もの」の世界です。何かが起こっている。つまりそれは現象ですけど、それが「こと」の世界。触れて感じることができるのが「もの」の世界。あやふやでいたずらに情報量の多い「こと」の世界の端(は)を捉えたのが「ことの端』と呼ばれて、言葉という言葉の語源になったのだそうです。
何かを名付けるのは、「こと」を「もの」化することに他ならない。病気も幽霊も「こと」の世界からやってくるのです。