暴走するトロッコが進んでいくのを見つけたあなたは、トロッコの向かう線路の先で作業をしている5人の作業員を見つけます。このままでいくと、きっと5人の方たちは死んでしまう。
あなたのすぐそばには、線路の切り替えレバーがある。これで二股に別れている線路の反対側にトロッコを走らせれば5人は助かります。ところが、反対側にトロッコを進めると、その先には1人の人が作業をしている。あなたが線路を切り替えてしまうと、5人は助かるかもしれませんが、1人の方は亡くなってしまう。
どうしたらいいのか?
これがトロッコ問題です。
5人を助けるために、1人を犠牲にしていいのか?つまり、5人の命と1人の命はどっちが重いという問いのように思いますけどね…そもそもトロッコが進む線路を切り替えるという行為、それは運命に介入する行為なのですけど、それをしていいのかどうかという問いも、同時に突きつけられている訳です。
もちろん、正しい答えなんてないですよ。正解はない問いですから、この種の問いに答えると、あなたが答えているのは、ある種の人生観というか、あなたの価値観ということになるわけです。
トロッコ問題は、イギリスの哲学者フィリッパ・フットさんが「中絶問題と二重結果論」という論文の中で使われたのが最初だと言われています。
妊娠中絶は殺人だから認めないとするカソリックの考え方に対して、母体が危険という状況下であれば、特例として認めるべきだとする考えをフィリッパさんが述べる時に、喩えとして使ったのですね。
この喩えを使うという方法は、カウンセリングでも使われています。フロイトにしてもユングにしても、夢を分析することが多いのですけど、夢に出てくる何かは、他の何かの喩えだとする考え方を採用しているからです。
夢に飛んでいくロケットが出てきたら、それはロケットではなく、◯◯を象徴しているとかね。
この喩えを使うという方法は、クライアントとの対話の中でも多用されます。何かに喩えると、頭を冷まして冷静に考えることができるからです。
昭和の時代から抜け出してきたような、昔気質の経営者がいるとします。部下への態度が、あまりにも旧弊な訳です。
その彼にこういう話をします。私の知り合いのお父さんがね、戦前の生まれなのですけど、家族に対するものの言い方が激しいのです。奥さんも会話を避けるようになってしまっているし、知り合いは嫁いでいるのですけど、実家に帰るのは気が重いと言うのですね。
戦前の男だったら仕方ないのでしょうけどね…と彼は話に乗ってきます。
育てられ方も違うでしょうし、価値観も違いますからね。でもね、世の中は変わっていっているから、それに合わせないとよくないですよ。昔だったら、ミスした部下を、上司は怒鳴るのが仕事だったのですけど、今はそんなことをしたらパワハラと言われてしまいますから。経営も大変ですよ。
ああ、この方は頭では分かっているのだ…この会話だけでも、問題点を絞り込むことができる訳です。
ところで、少し前にトロッコ問題を解決したという記事を見つけたのです。
かなりワクワクしながら読みました。
ツイッターに投稿された動画が767万回再生されたという、その解決法を発見したのは、鉄道ジオラマを作るのが趣味のB作さんという方。
トロッコが、2股に分かれた線路を越えた瞬間に急ブレーキをかける。そうすると前輪と後輪が別々の線路に乗り上げて、進行方向に対して真横になるような形で、トロッコは止まるのだそうです。
動画を見て驚きました。本当に鉄道模型がピタリと止まっている。作業員は全員助かる訳です。
こういう発想って大好きです。
フィリッパさんがご存命であれば、この動画を見て何と言うか、聞いてみたかったものです。
撮影カメラマン 松原充久
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