『コレクターの心理』

所用があって元町・中華街駅あたりを歩いていたら、遠くにイギリス国旗が揺れているのが見えたのです。

ちょっとお腹が減っていたので、イギリス料理(と言っても、フィッシュ&チップスとキドニー・プディングくらいしか知らないのですけどね)もいいかもしれないと思って、そちらに歩いて行くと、隣にはフランス国旗が揺れている。

え、ブリティッシュとフレンチの両方を出すレストランってことなの?

そういうのは、はじめてかもしれないと思って近づいていったら、レストランではなくてアンティークのお店だったのです。窓ガラス越しに、年代物のランプシェードがずらっと並んでいるのが見えました。

3階まで商品がぎっしり並んでいて、お店というよりもギャラリーのようで、しばらく長居してあれこれ見ていたのですけど(ロイヤル・ドルトンのカップ&ソーサーとか、古伊万里の食器とかですね)なかなかにいい値段のする商品の中に、ポツンと1つ300円とか、そういうコーナーがあったのです。

ペンダント・ヘッドかなと思って見てみたら、フェーブだったのですね。

フェーブというのは、1月6日の公現節の日に食べるガレット・デ・ロワの中に入っている、小さな陶器のことです。フェーブはそら豆という意味なのですけど、もともとローマの祭りに起源があって、当時は焼き菓子に本物のそら豆を入れていたとか。

キリスト教がらみの人形が多いのですけど、最近は本当にありとあらゆるモチーフのフェーブがあります。スター・ウォーズとか、ディズニーのキャラクターのフェーブまであるそうですよ。

時間もあったので、一つ一つじっくりと見ていたのですけど、これがなかなかに手が込んでいるものもあって、コレクターが多いのも頷けます。

心理学的には、何かをコレクションするという傾向は、どちらかといえば男性に多いと言われています。

人間が何かを収集する理由はいくつもあって、人によって異なっているのですけど、例えば自分が詳しい分野について知識を自慢したいという動機で収集する人がいます。そんな人にとっては、収集物が自尊心を高めてくれるのかもしれないですね。

希少な対象物を探検のように求めていく過程のスリルがたまらないという人もいるでしょうし、
収集によって、知的満足が得られるということもあると思います。

男性にコレクターが多い理由は、人生の一分野を完全に自分のコントロール下に置きたいという欲望からコレクションする方が多いからですね。収集物を何度も整理しなおすたび、ある種の支配欲が満たされる。気づいているかどうかは本人次第でしょうけど、支配欲が動機になっているコレクターは多いのです。

収集癖は人間だけのものではないようで、ネズミも用途が不明なカラービーズを集めるそうですし、リスは自分では食べきれない量のエサを溜め込みます。きらめく装飾品類にとりつかれたカササギもいますから、動物たちの中にも、コレクター気質はあるのです。

6歳以下の子供たちの70パーセントが、何らかの物を収集し始めるという調査結果もあるそうですから「集める」という行為は、人間心理の深いところに根があるようですね。

私は「安心」するためではないかと考えています。

狩猟採集をやめて、農業のために定住した人たちは食料を「集める」もしくは「保存」することが重要になりました。その行為は生き死にに関わるわけです。だから必要以上のものを集めると安心する。そういう機能が脳にはあると思うのです。

神経内科医のスティーブン・W・アンダーソンによると、物を集めなければならないと駆り立てる感情は、大脳皮質下と大脳辺縁系で生成されているそうです。これは食べ物や水分など、生きるのに不可欠な物資を集めて確保しておこうとする人間の本能と関連があるそうですから、本能ともっと高次な欲望を同時に満たしてくれるのがコレクションするという行為なのでしょうね。

子供の時に、恐竜の玩具をコレクションしていたことはありますけど、今の私は特別ないなぁ。

何か集めているものがありますか?