『誰が映画を回しているのか?』

『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』という映画を見てきました。平日の早い時間だったのですけど、おそらく60代よりも上の世代の観客でいっぱいでした。もしかしたら、一番年齢が若いのは私だったかもしれない…?

ダイアン・キートンとリチャード・ギアが夫婦役。彼らには娘がいて、その娘の婚約者の両親というのがスーザン・サランドンとウィリアム・H・メイシーなのです。まぁ、ジャンルでいったらラブコメなのでしょうけど、ちょっとまぁ、恋のから騒ぎというやつが起こるのです。ダイアン・キートンは相変わらずキュートなのですけど、彼女は78歳ですし、リチャード・ギアだって74歳です。この年代の恋愛ものなのですから、それはまあセリフの中に「残された時間」という言葉が頻出する。

う~ん。

やっていることというか、脚本は往年のウディ・アレン映画のようなのですけど、どうもね…うまく回っていかないなぁと感じたまま、お約束通り若い二人の結婚式で映画は終わってしまったのですね。

いわゆる「狂言廻し」を努めるキャラクターが不在だった。きっとそういうことなのでしょう。スーザン・サランドンがその役を買って出てはいるのですけど、それこそ空回りしているように感じるのです。彼女は「狂言廻し」というキャラではないですものね。

最良のウッディ・アレン映画、例えば『世界中がアイ・ラブ・ユー』と較べて『アバウト・ライフ 幸せの選択肢』に何が足りなかったかと言ったら、結局のところウディ・アレンという「狂言廻し」の名人の存在かもしれません。それに、ロマンチックなシーンかな…?

ゴールディー・ホーン演じる元妻とアレンが、パリのセーヌ河畔でダンスを踊る。そのまま二人はすーっと空中に浮いていって…ああいう遊びがないとね。私はそう思ったのですね。

ところで「狂言廻し」は、Wikipediaによれば「「進行役」「語り手」「語り部」に当たる役割である。物語が複雑になった時に現れて観客の理解の手助けをしたり、など、その使われ方は様々である。」という意味なのですけど、要するにシャーロック・ホームズにおけるワトソンの役割をするキャラクターということです。あるいは『スター・ウォーズ』シリーズのC3POとR2D2ですね。

ユング心理学で言えば「トリックスター」に当たる存在だと思うのですけど、このタイプが登場してこないと、何というか、それが映画であれ、舞台であれ、もしかすると現実世界でも同じかもしれませんが、場が活性化しないのです。

以前伺った話なのですけど、チーム編成というのは子供のテレビ番組の『ゴレンジャー』を参考にしたらいいという話があるそうです。

アカレンジャーはリーダーだけど、ちょっと強引。理屈よりも感情的になりやすいタイプ。アオレンジャーは影のリーダーで、チームメイトもその能力を認めている。だけど、ちょっとコミュニケーションに問題があって、単独行動を好む。キレンジャーはチームのまとめ役であり、仲介役。ちょっと太っていることが多い。モモレンジャーは、え、そうなるのという価値観を持ち込んでくれる。会議が煮詰まった時に、お弁当を用意して「食べてから続きを話しましょう」と言ってくれるとかね。

さて、「狂言廻し」であり「トリックスター」であるタイプというのは、ミドレンジャーだと思うのですね。これは実際の年齢とは無関係なのですけど、何だか青二歳という雰囲気を持っている人。落ち着きがないとか、好奇心が旺盛とか、子供っぽさを残しているタイプです。でも、このタイプが新しい情報であるとか、新しい考え方とか、何か変化のきっかけになるものをチームにもたらしてくれるのです。

ウディ・アレンって、まぁそういう感じですよね?

アレンは「#MeToo」運動でジャーナリストのローナン・ファロー(アレンの実の息子です)から告発されることになりました。圧倒的に世間がファロー側に立ったのは、アレンの持っている、そういう危なっかしさを薄々感じていたからではないかと思うのです。

それはともかく、ちょっと変わっている奴だなとか、いつまでも大人にならない奴だなと思っても、ミドレンジャーは大事に育ててあげてくださいね。

ミドレンジャーにはミドレンジャーの役割があり、それを果たすことで全体を活性化させてくれるのですから。