『自分を知るということ⑧』

英語の決まり文句みたいなものなのかもしれませんが、何かを断わるときに「not my style」という言い方をよくします。例えばワンピースなどを選んでいて、何かを勧められる。うん、うん、とってもいいと思うのだけど、ごめんね、私のスタイルじゃないわ。そういう言い方をするのです。

「too much」というのもよく使いますね。う~ん、それはちょっとやりすぎね…みたいな感じです。ブランドのロゴが大きく描かれたジャケットなどを勧められたら、私には「too much」だと思うわ、そういうのは「not my style」なのよ。そういう感じで断るわけです。

でも、ということは少なくとも自分がどんなスタイルを好むのか、自分には過剰なのか適度なのかが分っている。そういうことですよね。ブティックで買い物をしている多くの人たちは、自分の一部を知っている。そういうことになると思います。

精神科医として、うつ病であるとか、その他の精神疾患の臨床にあたっていると、その職場は、あるいは仕事が、人間関係が、あなたには「too much」だし「not your style」だと感じるクライアントが多いのです。だからこそ、結果的に何かしらの症状が出てしまったのだと思うのですけどね。症状が出るということは、ある種の適応でもあるわけですから。

そういうクライアントの方たちは、ブティックで勧められた商品をホイホイ買っているかと言えば…そんなことはないでしょう。こだわりの強さがうつ病に罹りやすい性格特性として挙げられているくらいですから、きっと吟味しているはずです。

服を選ぶのと、自分の人生を選ぶこと。どちらを優先させるかといったら、それはまぁ後者だと思うのですけど、服を選ぶように人生の選択ができたら、病気にならなかったかもしれない。植木等さんが歌っていた『スーダラ節』のようですけど、分っちゃいるけど止められない(辞められないなのかもしれないですけどね。)のはなぜなのか?

きっと理由はたくさんあるでしょう。でも、その理由を知らないと、また同じことを繰り返してしまうかもしれない。

カウンセリングって、ただうつ状態から脱するだけでなく、あなたが病気(うつ病になること…とかですね。)を選んだ理由を知ることもできる。むしろ、そちらの方が重要なのです。

自分を知ることで、救われることもあるのです。