『自分を知るということ④』

浦河べてるの家の向谷地生良(むかいやち いくよし)さんが始められた「当事者研究」というリハビリテーションのプログラムがあります。

事例から説明するのが分かりやすいと思いますから、べてるの家に通われている「りえさん」の体験を引用しますね。

『りえさんは、両親と3人暮らし。思春期に統合失調症を発症し、40代になった今でも常に幻聴さんがいて苦労しています。最近は夜、布団に入っていると幻聴さんに足を引っ張られて、眠れません。眠れないので、自宅近くのコンビニに行って、コンビニのポットのお湯で、持参したコーヒーを飲んで過ごしています。夜中に急に出かけるりえさんに両親はとても心配し、また、コンビニの店員さんも、少し困っています。りえさんによると、彼女の足を引っ張る幻聴さんは、どうやら「お化け」だそうです。

りえさんは、当事者研究を始めてから仲間とのつながりが増えました。以前は、夜中に街を出歩くことに両親も不安を抱えていましたが、当事者研究を進める中で、りえさんにとって「コンビニのポットのお湯がとてもおいしいこと」「コーヒーやお茶を飲むのは自分の助け方であること」が分かってきました。そこで、自宅にもポットを用意し、お母さんがすてきなお茶コーナーを作ったところ、頻繁にコンビニに行かなくてもよくなりました。また、「お化け対策」として玄関にバナナなどのお供え物をしておくことも、効果があると分かってきたそうです。』

うつ病の人にはこういう性格の傾向があってとか、統合失調症の方の家族構成はこうであることが多いとか、そういう一般化した言説は一旦棚上げにして、自分自身のことを研究する。自分の言葉で、自分自身が感じている世界を表現する。それが当事者研究なのですけど、これって、誰でもやってみたら面白いのではないか?そう思ったのですね。

この文章を読んでいただいている方はご存知でしょうけど、私は暇さえあれば映画を見ているか、本を読んでいるか、そういう生活を送っています。ところが、最近好みの傾向が本当に激しいのですね。好みじゃないものを見たり、読んだりするのを苦痛に感じるようになってきました。

そのことで…ああ、そういうことかと、自分が少しだけ分かった気がしました。