『シンゴの整体  突発性難聴の話⑤』

お互い忙しい訳だから、あんまり仕事について長い話をすることってなかったのだけど、ジルに整体するのが日課だったからね、あれこれと長話をしていたのよ。

まぁ、なんてったってハーバードで医師免許を取った訳だから、ジルの話ってのは頭がいいなぁって感じることが多いのだけどさ。今回ジルがしみじみと語ってくれた話を聞いていて、ああ、この人は何かあってもただじゃ起きないと思ったのよ。

それはまぁクライアントにはストレスの恐ろしさについて語るでしょ。ストレスがあるなぁって感じているうちは大したことはなくて、それがいつか形をとってストレスを軽減する努力をしなかった自分を告発してくる…とかね。自分のことを棚に上げていたのね。人は自分のことが一番見えないものだから。こういうのって日本語って何ていうんだっけ?医者が病気になっちゃうって意味の言葉…?

医者の不養生。

ああ、それそれ。

河童の川流れとかな。

自分がこうなって、それはもちろん反省したわ。でもね、良かったこともある。片方の耳が聞こえないということは、本当に辛い。それを身をもって知った。ストレスの怖さも改めて知った。それより何よりも、ある種のものごとにはリミットがあるし、リミットを感じて生きることは、それは恐怖なのよ。突発性難聴は発症して2週間が勝負だから。

きっとこれで何かが変わると思う。私のカウンセリングも、きっと生き方も。片方の耳が聞こえない、奥ゆきが失われたような世界はもう御免だから。

ジルなら大丈夫だよ。整体していて、いや、そんなに怒ってばかりいるとまた腰痛になるぜって言っても、性格だからなぁって言う人の方が多い。で、また腰痛になって整体に来る。原因があって結果がある。そりゃまぁ因果よね。

ただじゃ起きないってのは、何かあったら、反省して強くなることができるってことだな、きっと。