『私はなぜ映画を見るのか?⑤』

カウンセリングをいつ終わりにすればいいのか?それは精神科医を常に悩ませる問題です。アメリカのように、終わらせないで定期的なカウンセリングを続けていくという選択肢もあるのですけど、カウンセリング文化が定着しているとは言い難い日本では、そういうケースは稀だと思います。それは、寛解状態をいかに見極めるかという問いでもあるのですけど、終わらせることにはある種の感情的なカタルシスも伴うことになる訳で、その影響も考慮しなければならないのですね。カタルシスがないまま、「last train」が駅に到着しないまま50年を生きるというのは本当に辛かったと思います。ニコラスの心の一部は、きっとまだあのがらんとした駅舎にあるのです。幸福そうに見える。プール付きの家で何不自由のない老後を送っている訳ですし、もうすぐ孫も生まれる。だけど、彼の中では戦争は終わっていないのですね。その憂いとでも表現する他ないニュアンスをアンソニー・ホプキンスは見事に演じています。ここから先は、是非映画館に足を運んでほしいと思うのですけど…彼は救われることになります。完全な形ではなかったかもしれない。自分が望む終わりではなかったかもしれない。それでも、彼の中で50年間抱え続けてきたことが終わることになるのです。きっと、私もまた見に行く気がするな。