『玉置神社・闇の奥②』

玉置神社の駐車場から、かなり長い道を歩いて神社に向かうのですけど、高地ですからね。
新宮市に比べるとグッと気温が下がっているのです。熊野三山の奥宮といっても、
玉置神社は奈良県吉野郡十津川村にあたります。

天候が優れない日ということもあったと思うのですけど、参道からして暗いし、
どこか湿り気を帯びている。
群生している苔を見るたびにバス・ドゥヴォス監督の『Here』のことを思い出していました。

苔の研究をしている中国系移民の女性が苔をクローズアップで撮影するシーンが何度か出てきて、顔見知りの男性が苔の生き物としての美しさに感動するのですけど、玉置の苔もまるで動物が寝そべっているかのように、やけに生々しく目をとらえてくるのです。

季節がら紅葉している木々もありましたけど、意識はその美しさよりも、むしろ足元の苔に向かう。
そういう感じで長い時間歩いていったのです。

昼間でも鬱蒼と暗い。自然描写の紋切り型のような表現ですけど、石段を登りきって鳥居をくぐっても、熊野神社はなお暗いのですね。その暗さが身体に染み込んでくるような気がします。

統合失調症や癲癇にあたるような症状が狐憑きとされたようですけど、狐に憑かれた者は赤飯や油揚げを食べたがるという症例も数多く残っていて、民間伝承の中で、だから憑依したのは狐だということになっているそうなのですね。

でも、冷静になって考えてみると…本物の動物の狐というのは、油揚げが好きだったりはしないと思うのです。

そもそも自然界に存在する食べ物ではないですからね。
ちょっと調べてみると、狐が好きなのはネズミなどの小動物だそうで、狩を好むそうです。
残飯を食べることもあるようですけど、油揚げというのは食べるのかな?

ちょっと食べさせて試してみたい気もしますけど…。

狐憑きというのは、どちらかといえば民俗学の対象となる事象だと思いますが、その狐の性質も
言ってみたら民間伝承なのでしょうね。

社務所の建て替え工事が始まっていて、神社の中は白い幕であちこち覆われていましたけど、目指す三柱神社は本殿の奥にありました。