『シンゴの旅ゆけば~!(130)ロサンジェルスのフッカー・ホテル③』

朝食といっても、トーストにバターとジャム、それにコーヒーなのだけど…コーヒーを淹れてくれる女性というのが、いや、それは売春婦の格好だろっていうような、ものすごくエロティックな姿なのよね。

ロングブーツに超ミニスカート、キャミソールって感じだけど。

その上、派手な化粧はヨレヨレになっていて、マスカラが顔のあちこちにくっついていたり、口紅がほっぺたについているような疲れきった顔なのよね。そして機嫌がものすごく悪い。さっさと食べて出ていけよという態度がかなり怖いのよ。

マシモ君が言うのには、あの人たちは本物のフッカーですよとのことだった。このホテルで朝食をサーブするとか、シーツ交換、掃除といった雑用をする。その代わりに無料で泊まっているそうなのだ。だいたい中南米から出稼ぎに来ているみたいですよ。マシモ君は言った。だから本業の仕事が終わって、これから一眠りっていう前にコーヒーを淹れているわけです。それはまぁ、機嫌もよくないですよね。

マシモ君はいつも穏やかに話す。あまりにも穏やかに話すから、なんだか大したことは起こっていないように感じてしまうのだけど、フッカーが溜まっているホテルってどうなのよ?まぁ、だから安いのだろうけどね。

このホテル内では客を取ってはいけないというルールがあるそうなのだけど、それはまぁここではダメというだけの話だ。仲良くなると、どこそこのストリートの角に今夜は立っているから、来てねと誘われるらしい。まぁ、俺も何日かして誘われたのだけど、ちょっとまぁ遠慮させてもらった。

バックパッカーって、まぁそりゃ色々と目的があって旅をしている訳なのよね。俺みたいに、ただ好奇心だけで、あちこち見てみたいってのもいれば、インドとかネパールあたりを中心に旅していて、精神修養のためにアシュラムに入るタイプもいる。沢木耕太郎の『深夜特急』に感動して旅に出たというタイプもいる。冒険心がやけに強いのもいるし、自分探しをしている奴もいる。とにかく行ったことのある国や地域の数を増やしたいというタイプもいれば、死場所を探しているようなのもいる。

中でも旅の理由が明確なのは、女性を抱くために旅をしている連中だと思うのよね。どこそこの国の女はこういう感じというのを日記につけている奴とかいたのよ。まぁ、恋愛する訳じゃなくて、だいたい娼館に行っているのだけど。インドの娼婦は上半身は服を着たままとか、タイの娼婦はスポーツ感覚すぎてムードがないとか、その手の話はよく聞いた。まぁ、そういう連中ならホイホイ誘いに乗ったのだろうけどね。