『シャルル・ペパンとバカロレア⑥』

『幸せな自信の育て方』ではフロイトが何度か引用されるのですけど、以下は『文化への不満』からです。

「社会は個人がそれぞれの独自性を放棄することで成り立っている。社会には、行動規範が存在する。その社会に所属する個人は、自分のしたい行動よりもその行動規範を優先させなければならず、結果として「不満」を抱くようになる。あっさりと自信を失い、望み通りの人生を生きることなど無理だと考える人がいるのも無理はない…。」

囚人は絶望し、泥を見るように社会から仕向けられている。それでも星を見上げる行動が取れた時、あなたは自由になれる。

ニーチェは『ツァラトゥストラはこう言った』の中で、自分自身になれと言っていますけど、自分自身になることは、なかなかに難しい。シャルル・ペパンは自分がうつ病になった時の経験を語るのですけど、自分自身になることを放棄することは抑うつを招くのです。

「中年期の抑うつの多くは、欲求に忠実でないことによって引き起こされる。精神分析医のもとを訪れる男女は、なぜ自分が不幸なのかがわからない。はっきりとした「客観的な」理由は見当たらない。

親しい人を亡くしたわけでもなければ、離婚したわけでもない。仕事上の大きな問題も抱えていない。

ときには、物事が順調に進み、かなりの成功を手にすることさえある。それでも、彼らには重要なことが欠けている。自分が心から望んでいることを、追い求めようとしていないことだ。」

彼はこう書いた上で、人生にとって重要なのは自由であること。つまり自分自身になることであると結論づけるのですけど、この言葉はきっと教えている高校3年生に伝えたいことなのでしょうね。

哲学は、あなたが考えるための技術を与えてくれる。
そして、その技術を使って、予測不可能な人生に対応していってほしい。

教え子がどのような人生を歩んでいくのか、それは分かりません。彼にできるのは彼らの幸福を祈ることだけでしょう。アリョーシャ・カラマーゾフの言葉は、そんな彼の気持ちに重なるように思うのですね。

「しかし全体としては人生を祝福しなさい」