『シャルル・ペパンとバカロレア②』

読書が好きなのですけど、仕事絡みの本…つまり心理学や精神医学の本ということですけど、それを読むのは仕事の一部ですからね。趣味の読書ということになると、A・J・クィネルとかになると思うのですけど、シンプルに楽しめるかと言えば、そうでもない訳です。登場人物の心理を細やかに追っていく、あるいは全く内面の描写をせずに読書に委ねるといった構造でも同じなのかもしれないのですけど、そこに「意識の流れ」をどうしても読み取ってしまいますからね。

下手な医学論文を読むよりも、ずっとある種の心的な疾患について上手に語っているなんてこともある訳ですし。さすがプロの作家だなと、そういう時は感心させられます。人間をよく知っていると言うのでしょうかね。

だからまぁ、読み手としての私は、抗い難く精神科医としての読みに引きずられる。そこをリセットすることは難しいです。建築家には建築家の読み方があり、映画作家には映画作家の読み方がある。きっとそうだと思うのですね。

先日、シャルル・ペパンの『幸せな自信の育て方』という本を知人から薦められて読んでみたのですけど、感動してしまったのです。仕事絡みと趣味の本のちょうど中間くらいの本ということになると思うのですけどね。いい映画を見た後に、ちょっとアルコールが欲しくなるということがあるのですけど、読み終えて、とりあえず赤ワインを開けて、ペラペラと気に入った箇所をめくり直しながら一人でボトル半分くらい飲んでしまいましたから。

彼は高校生に哲学を教えている先生なのですけど、バカロレアには哲学の試験科目もあって(フランスでは、高校3年生になると哲学が必修になるそうです)その対策本も書いています。日本語訳もあって『フランスの高校生が学んでいる哲学の教科書』というタイトルです。

今まで学んできたこと全てを総括する意図で哲学を学ぶことになるそうなのですけど、それは知識をどう使うか、つまり考えるための技術として哲学があるという位置付けだからです。

マレ地区のマダムが言った「教育がない」とは、きっとこの技術を欠いた人間ということなのだと思うのですね。