『私の知らない90年代③』

ウォン・カーウァイにしても、ジャームッシュにしてもそうですけど、彼らの映画の登場人物はタバコを吸っていることが多いのです。『コーヒー&シガレッツ』なんて映画もジャームッシュは撮っているくらいですから。

『天使の涙』のミッシェル・リーなんて、登場シーンのほとんどでタバコを口に咥えているくらいです。『ナイト・オン・ザ・プラネット』のウィノナ・ライダーはタクシードライバーですけど、彼女は咥えタバコで運転している。ああ、90年代だなぁと、そういうところにも時代を感じてしまいます。

そうそう、アメリカで90年代に人気のあった『Xファイル』の登場人物は、ほとんどタバコを吸わないのですね。ところが、登場人物の中で主人公の宿敵になる男だけは、タバコを吸うのです。シガレット・スモーキング・マンと呼ばれているのですけど、通称はキャンサー・マン。アメリカで嫌煙運動が始まった時期と、このドラマは重なっている訳です。

日本の90年代って、どんな時代だったのと友人に聞いてみたのですけど、あまり明るい話題がなかったとか、経済が酷かったとか、そういう話に加えて、小室哲哉がらみのヒット曲が多かったという話をしてくれました。

この方のインタビュー記事を読んだことがあるのですけど、なるほどと膝を打ってしまうようなことを語っていました。深夜の六本木とか、西麻布で若い人たちがお酒を飲んだり、踊っている中にずっと身を置いていると、なんとなく今、この瞬間の雰囲気というのを感じ取れる。それで、急いでその雰囲気を醸し出せるような曲を作ってスタジオで録音するのだけど、

当時はインターネット配信なんてなかった訳です。だから、どんなに急いでもCDが発売されるまでに3ヶ月くらいかかってしまう。そうなると、あの時とはもう雰囲気が変わってしまっていて、そのことが悔しかった。そういう内容のことを話されていたのですけど、なるほどなぁと思った訳です。

90年代と、今となってはざっくりとしたスパンで語られてしまうけれど、考えてみたら10年という開きがある訳ですからね。一線で活躍していたヒット・メーカーは、その中の更にピンポイントを狙えるのか。そのことにつくづく感心してしまったのです。