『やってくる⑦』

よく言われるように、うつ病の方というのは「べき」という言葉を好む傾向があります。

これは経験上もそう感じますね。

だって、親というのはそうあるべきでしょとか、会社に対してそうあるべきだと思うんですよねとか、発話される言葉の端々に「べき」が多用されますからね。

その時、きっとクライアントは外部と接触する回路を閉ざしている。自分の内部で問題を解決しようとしているのだと思います。まぁでもね、それは原理上無理なのです。

うつ病を寛解された方というのは(うつ病には…例えば骨折のように完治という概念がありません。

日常生活を滞りなく送れる程度に回復したことを寛解と呼ぶのですね。

ですから、うつ病で完治に近い概念があるとしたら、寛解状態が長く続いているという意味になります)性格が変化していることが多いのですね。

極端な喩えかもしれませんが、猛烈に仕事をしていた体育会系の営業マンだった方がうつ病になって寛解すると…穏やかな、いい意味でぼーっとした性格になることが多いのです。

勝ち負けのこだわりのようなものが興味の対象から抜け落ちてしまう。

ですから、転職されることになる方も多いですね。

きっと闘病中に外部に触れてしまったのでしょうけど、それはつまり自分が含まれている世界が変わるのではなく、世界はそのままであって、自分の方が変わるということ…ある種の頑固さ、頑迷さから降りるということであるからです。

自分の内部で問題を解決することはできないというのはそういう意味です。

問題の解決というのは、そもそもそれが問題ではなくなるという形で、きっと外部からもたらされる何かにヘルプされている。私はそう感じます。

河合隼雄がアルコール依存症のクライアントを前にして、酒を止めなさいと言わなかったのは、きっと外部が彼に触れてくる環境を整えることだけに専念していたから。そうとも言えると思います。

待つこと。信じること。開かせること。

クライアントと向き合うとき、カウンセラーが肝に銘じておかなければいけないことは、きっとその3つかもしれません。

「人間が生きものの生き死にを自由にしようなんて おこがましいと思わんかね……」

漫画『ブラック・ジャック』の師匠である本間先生の遺言ですけど、これを書いていて何度もその言葉を思い出しました。

外部がやってきたのかな?