『シンゴの旅ゆけば~!(108)夜這い棒の話④』

結婚とか、恋愛とかって、それはまぁ国によってシステムが違うのはあたりまえなのだろうけど、旅をしていて、本当のところってやつを聞くと、どのシステムでもいろいろと苦労があるなぁというのがよく分かる。

イタリアじゃ、法的に離婚するのはすぐにでもできるそうだけど、敬虔なカソリックだと婚姻というのは神さまに誓った訳だから、そう簡単には破棄させてもらえない。だから、離婚するまで何度も神父さんのところに話をしに行くことになる。

モロッコで奥さんが2人いる男のタクシーに乗ったことがあるのだけど、これがもう地獄なのだそうだ。平等に扱わなければいけないから、何かを奥さんAにプレゼントしたら、奥さんBにも同じものか、同等のものをプレゼントしなければならない。子供だって同じ数生んでもらうことが望ましいとされているし、ああ大変らしい。まぁ、それはそうなるだろうな。

エジプトでは、たとえ歳がどれだけ離れていても、独身の男女が同じ部屋にいることはよくないとされているそうだ。だから、大学時代の恩師が亡くなった後、高齢の奥さんをケアしていた弟子は非難されてしまった。その弟子はすでに結婚していたのだけど、恩師の妻を2番目の奥さんにすることにした。そうすれば誰にも文句は言われない。そうしたら、今度は美談としてエジプト中で話題になったそうだ。

この手の話で一番興味深かったのは『選択の科学』という本を書いたインド系のシーナ・アイエンガー女史の結婚の話だ。

俺がインドにいた時に聞いた話だと、インドでは親が結婚相手を決めるのが一般的なのだそうだ。この相手がいいのではないかということになったら、まずはカーストが同じくらいかどうかを調べ(公式にはカースト制度は廃止されたことになっているけど、こと結婚に関しては今でもかなり気を使うらしい)次に星占いで相性を調べる。だいたいインドの家族には世話になっている占い師のような存在がいて、その人に相談しに行く。その手順で結婚相手が決まっていくのだそうだ。

シーナ・アイエンガー教授はアメリカに移民した家族で育ったから、恋愛結婚でご主人を選んだそうなのだけど、問題が持ち上がったそうだ。どちらの家も古いインドのしきたりを守りたかったそうなのだけど。それで、ご主人になった方の母親が占い師に相談に行った。カースト的にも、家柄でも、ご主人の家の方がずいぶん上だし、その上彼女は目が見えない。

占い師の家のドアを開けた途端、義母になった女性はこう言われたそうだ。

お母さん、息子さんの結婚でしょ。息子さんと彼女は過去の生で7回夫婦をしている。今回の生でも夫婦になる。さらにまだ7回の生で未来も夫婦になることが決まっている。だから、どうあがいても2人は結婚するわよ。

おかげで結婚できたけどねと前置きした上で、そのことを科学者の立場から、あれこれ調査をする。占いって何だろうとか、本当に過去生で7回も結婚していたのかどうかとかね。だけど、彼女が出した結論は「分からない」なのよね。

そりゃそうだろうと思うけど、アイエンガー教授はご主人と楽しくされているようで…要はどういう結婚であれ、本人同士が幸福ならそれでいいのよね。