『地下に降りていく④』

『墓泥棒と失われた女神』のパンフレットを買ったのですけど、それによるとモチーフの一つ

になっているのは、ギリシャ神話の「オルフェウスとエウリュディケ」なのだそうです。この神話は不思議なことに、日本神話のイザナギ、イザナミの話とそっくりで、死者の国に妻を迎えに行ったのだけど、地上に戻るまで振り返ってはいけないというタブーを破ったために取り戻すことに失敗するというストーリーなのです。

エトルリア人の墓を暴くことで生計を立てている墓泥棒(イタリア語でトンパローリ)が現実にいた地域(トスカーナの田舎)で生まれ育ったアリーチェ・ロルヴァケルが、子供時代に聞いた地下遺跡の話の記憶と、神話の記憶。それに加えて、この映画には映画的な記憶も散りばめられています。

ああ、そうか、そうかとパンフレットを見て頷いてしまったのですけど、彼女はロッセリーニの『イタリア旅行』やアニエス・ヴァルダの『冬の旅』からインスピレーションを受けているそうです。このシーンって、あの映画に似ているよねと思ってしまうシーンもありましたし。

たくさんの記憶をシャッフルしまくったような、記憶の坩堝から立ち上がってきた『墓泥棒と失われた女神』で、アーサーが降りていく地下は、その記憶を超えたところにある…村上春樹が地下2階と呼んだ場所なのですね。

静けさに満ちた死者のための空間です。

オルフェウスもイザナギも、地下への降下はイニシエーションの意味も持つのですけど、結果として目的を果たすことはできない。

でも、この映画ではアーサーは失った女性と再会することができる。

他界への扉を開けて目的を果たすためには、アーサー自身が変化する必要がある。この映画の中のルールはそう設定されているのですね。